YUMA MIZUNO / MATHEMATICS
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TORIC GEOMETRY & CLUSTER MUTATIONS

トーリック曲面のブローアップの変異と\(q\)-Painlevé 系

同じ初期値空間にも、異なるトーリック曲面からの構成がある。その構成を記録する「種子」を、変異で結びつける。

主定理

同型な \(q\)-Painlevé 系を与える種子は、変異同値である。

離散 Painlevé 系は、有理曲面の族への作用として構成される。その分類には楕円型・乗法型・加法型があり、ここでは乗法型、すなわち \(q\)-Painlevé 系を扱う。

01 / SEEDS & SURFACES

種子から初期値空間へ

\(q\)-Painlevé 系の初期値空間は、トーリック曲面の境界上の非特異点でのブローアップの族として構成できる。種子は、その境界の方向とブローアップの回数を記録する。

定義 · 種子

反対称双線形形式を備えた自由アーベル群 \(N\) における種子は、\(N\) 内の多重集合である。以下では \(N=\mathbb Z^2\) とし、形式には外積を用いる。

\[ (a,b)\wedge(c,d)=ad-bc. \]

種子の各ベクトルは primitive とし、種子全体が \(\mathbb Q^2\) を生成すると仮定する。primitive とは、ベクトルの成分の最大公約数が \(1\) であることをいう。

種子の例

\[s=\{(1,0)^3,(0,1)^2,(-1,0),(-1,-1),(0,-1)^2\}.\]

ここで上付きの数は多重集合での重複度を表す。例えば \((1,0)^3\) は \((1,0)\) が3回現れることを意味する。

青い矢印は格子ベクトル、朱色の点は重複度を表す。点は見やすさのため矢印の先でずらして表示している。

曲面を構成する3つの選択

  1. 完備で滑らかなトーリック扇 \(\Sigma\) を選ぶ。
    種子の各ベクトルを ray の生成元として含める。ray はトーリック曲面 \(\operatorname{TV}(\Sigma)\) の境界の既約成分に対応する。
  2. 境界上の点 \(p_v\) を選ぶ。
    各 \(v\in s\) に対応する境界成分上に、ブローアップする点を置く。
  3. 種子に順序を選び、ブローアップを合成する。
    \[\pi:Y\longrightarrow\operatorname{TV}(\Sigma).\]
    境界の強変換を \(D\) とする。

実際の構成では点を個別に固定する代わりに、このようにして得られる log Calabi–Yau 曲面の族を扱う。

02 / MUTATION

格子を折り曲げ、ひとつのベクトルを反転する

種子の元 \(v\in s\) をひとつ選ぶ。外積が正となる側のベクトルに区分線形変換を施し、選んだ \(v\) の1個だけを \(-v\) に置き換える。

\[P_v(n)=n+\max(n\wedge v,0)\,v,\]
\[\mu_v(s)=\bigl(P_v(s)\setminus\{v\}\bigr)\sqcup\{-v\}.\]

\(\setminus\{v\}\) は多重集合から1個の \(v\) を取り除く操作。重複している \(v\) のすべてを反転するわけではない。

変異を操作する

方向を選ぶと、上の種子をその方向の元で1回変異した結果を表示する。

変異前 \(s\)
変異後 \(\mu_v(s)\)

幾何学的な意味

変異は曲面の同型 \(Y\to Y'\) を誘導する。幾何学的には、ブローアップとファイバーの収縮を組み合わせる基本変換に対応する(cf. Hartshorne, 例5.7.1)。

変異と \(\mathrm{GL}(2,\mathbb Z)\) 変換の形式的な合成をクラスター変換という。クラスター変換で結ばれるふたつの種子を変異同値という。

03 / INTERSECTION MATRIX

境界の交差行列が系を特徴付ける

Sakai の理論では、\(q\)-Painlevé 系の初期値空間は一般 Halphen 曲面の族である。

命題

種子から定まる曲面 \(Y\) が一般 Halphen 曲面であるための必要十分条件は、境界 \(D\) の交差行列がアフィン型であることである。

扇と重複度から自己交差数を求める

滑らかな扇で \(v\) の両隣の ray の原始生成元を \(u,w\) とする。\(u+w+mv=0\) からトーリック境界成分の自己交差数 \(m\) を求め、ブローアップの回数 \(n\) を引く。ここで \(n\) は種子における \(v\) の重複度である。

\[D_v^2=m-n.\]

例1 · 各境界成分を2回ブローアップ

\(\mathbb P^1\times\mathbb P^1\) の4方向 \((1,0),(0,1),(-1,0),(0,-1)\) では \(m=0\)。各方向の重複度を2とすると、境界の交差行列は次になる。

\[\begin{pmatrix}-2&1&0&1\\1&-2&1&0\\0&1&-2&1\\1&0&1&-2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\1\\1\\1\end{pmatrix}=0.\]

この例は \(D_5^{(1)}\) 型 \(q\)-Painlevé 系に対応する。境界の交差行列の型と、系の対称性の型は区別する。

例2 · 異なる扇での計算

ray を \((1,0),(0,1),(-1,3),(0,-1)\)、重複度を順に \(1,0,1,9\) とする。

\[\begin{aligned}D_{(1,0)}^2&=0-1=-1,\\D_{(0,1)}^2&=-3-0=-3,\\D_{(-1,3)}^2&=0-1=-1,\\D_{(0,-1)}^2&=3-9=-6.\end{aligned}\]
\[\begin{pmatrix}-1&1&0&1\\1&-3&1&0\\0&1&-1&1\\1&0&1&-6\end{pmatrix}\begin{pmatrix}3\\2\\3\\1\end{pmatrix}=0.\]
04 / CLASSIFICATION

無限にある構成を、10個の同値類へ

主定理

同型な \(q\)-Painlevé 系を与える種子は変異同値である。

証明は、Kasprzyk–Nill–Prince による Fano polygon のあるクラスの分類へ帰着する。以下はその概略である。

  1. \(q\)-Painlevé 系を与える種子に対して \(\mathrm{size}\) を定義する。
  2. \(\mathrm{size}\) に関して極小な種子が有限個、35個であることを示す。
  3. その35個の間の変異同値を調べ、10個の同値類を得る。
初期値空間の構成
35極小な種子
10変異同値類

代表種子

\(E_5^{(1)}\) は \(D_5^{(1)}\) とも表記される。

05 / CLUSTER POISSON VARIETIES

すべての座標を貼り合わせる

種子 \(s\) に対し、\(s\) を始点とするクラスター変換に対応した代数的トーラスを貼り合わせ、クラスターポアソン多様体 \(\mathcal X(s)\) を構成する。

\[\mathcal X(s)=\bigcup_{\mu:\,s\to s'}(\mathbb C^*)^{|s|}.\]

クラスター変換 \(\mu:s\to s'\) は同型射 \(\mathcal X(\mu):\mathcal X(s)\to\mathcal X(s')\) を定める。

Gross–Hacking–Keel

変異から定まる同型射は、余次元2の差を除いて初等変換と一致する。

この対応により、クラスターポアソン多様体と、トーリック曲面のブローアップから構成する初期値空間の内部が結びつく。

クラスター変換で対称性を表す

\(\mu:s\to s\) からは \(\mathcal X(s)\) の自己同型が得られる。このように得られる自己同型群をクラスターモジュラー群という。

Bershtein–Gavrylenko–Marshakov

\(q\)-Painlevé 系の対称性である Cremona 等長群は、クラスターモジュラー群の部分群として実現される。

この実現は、\(\mathbb N\) 上での定義を通じたトロピカル化と、量子化につながる。

06 / AN E₈ EXAMPLE

\(E_8^{(1)}\) 型の作用を座標で書く

最後に、11個の元を持つ種子から得られる例を見る。この種子は、方向 \((0,1),(-1,0),(1,-1)\) の重複度がそれぞれ \(3,2,6\) である。

\(W=\langle r_0,\ldots,r_8\rangle\) を \(E_8^{(1)}\) 型のアフィン Weyl 群、\(C=(C_{ij})\) をそのカルタン行列とする。

012345678

作用 \(\iota:W^{\mathrm{op}}\to\operatorname{Aut}(\mathcal X(s))\) は、次の表示を持つ。

\[\iota(r_i)(a_j)=a_j a_i^{-C_{ij}}.\]
\[\iota(r_8)(f)=a_8^{-1}f,\qquad\iota(r_6)(g)=a_6g.\]
\[\iota(r_5)(f)=f\,\frac{a_5+a_5f+g}{1+f+g},\]
\[\iota(r_5)(g)=g\,\frac{1+a_5f+g}{a_5(1+f+g)}.\]

\(\mathcal X(s)\) は9次元の代数的トーラスを底空間とする2次元スキームの族で、\(a_0,\ldots,a_8\) は底空間の座標である。上の表示は、変異に対応する有理変換を合成することで求まる。